旅館・ホテル、もう少しお客様が増えれば……その前に考えておきたいこと

「もう少しお客様が増えれば」と思うことはありませんか

温泉旅館やリゾートホテルを経営していらっしゃる方なら、「もう少しお客様が増えれば」と思われることも多いでしょう。

あと少しお客様が増えれば売上が増え、固定費の負担も軽くなります。利益に余裕ができれば、従業員の待遇を改善したり、設備の更新にお金を回したりすることもできるかもしれません。

客室は、その日に売れなければ翌日に持ち越すことができません。今日空いている10室は今日で終わりですから、空室のまま一日が終われば、その日の販売機会はなくなります。

空いている客室を見て、「何とかしたい」と感じるのは当然のことです。

では、少し具体的に考えてみましょう。

「もう少しお客様が増える」というのは、どのような状態でしょうか。

土曜日はほぼ満室なのに、火曜日や水曜日になると空室が目立つ宿があります。夏休みや紅葉の時期は満室でも、梅雨時や冬の一部になると大きく稼働が落ちる宿もあります。

紅葉がきれいな時期でも、平日までは満室にならないという宿も多いことでしょう。

同じ「もう少しお客様が増えれば」でも、施設によって状況はかなり違います。

仮に50室の旅館で考えてみます。

土曜日に45室売れているなら、残っているのは5室です。一方、平日に20室しか売れていなければ、30室が空いています。

同じ空室でも、この二つでは事情が違います。

土曜日の5室は、一度は満室になった後にキャンセルが出たのかもしれません。急な部屋替えなどに対応するため、あえて全室を販売していない可能性もあります。

そうであれば、単純に「残り5室をどう売るか」という問題ではありません。

一方、平日に30室残っているのであれば、この30室の一部をどうすれば販売できるのか、もう少し細かく見ていく必要があります。

「お客様を増やしたい」という漠然とした話を、まず具体的にしてみることから始めます。

「お客様を増やす」を数字にしてみる

50室の宿で、平日の販売が平均20室だったとします。

いきなり満室を目指すと考えにくいので、まず20室を25室にできないかと考えてみます。

一日5室です。

20室なら客室稼働率(OCC)は40%です。25室になればOCCは50%になります。

月に平日が20日あるとすれば、単純計算で100室増えます。1室2名なら200人です。

ここで、平均客室単価(ADR)を3万円と仮定します。

一日20室なら客室売上は60万円です。月20日なら1,200万円になります。

5室増えて25室になれば、一日の客室売上は75万円。月では1,500万円です。

300万円の売上増です。

こうすると、「もっと集客したい」という話が、かなり具体的になってきます。

しかも、空いている平日の客室を販売することには大きな意味があります。

5室お客様が増えたからといって、建物や大浴場を大きくする必要はありません。建物の減価償却費など、すでに発生している固定費の多くは変わらないため、空いている客室を適切な価格で販売できれば、固定費の回収が進み、利益の改善につながります。

ただし、300万円の売上増が、そのまま300万円の利益になるわけではありません。お客様が増えれば、食材費やリネン費なども増えますし、OTAから予約を獲得すれば販売手数料も発生します。

最終的に、いくら利益が増えるのかを見る必要があります。

もう一つ考えておきたいのが、値下げです。

「平日に客室が空いている。それなら料金を下げて売ろう」

料金を下げれば、予約が増えることはあります。しかし、新しく増えた5室だけが安くなるとは限りません。

先ほどの例で考えてみます。

ADR3万円、20室ならOCCは40%で、客室売上は60万円です。

そこで料金を下げた結果、ADRが2万5千円になり、25室売れたとします。

OCCは40%から50%へ上がりました。

稼働率だけを見れば、大きな改善です。

ところが、客室売上はどうでしょうか。

2万5千円×25室ですから、62万5千円です。

5室も多く売れたのに、客室売上は60万円から62万5千円へ、2万5千円しか増えていません。

しかも、増えた5室には食材費やリネン費などがかかります。

実際の旅館やホテルでは、客室タイプや宿泊プラン、予約時期によって料金が異なるため、これほど単純ではありません。それでも、「OCCが上がったから経営が良くなった」とは限らないことは分かります。

OCCを見る。ADRも見る。そして最終的に、いくら利益が残るのかを見る。

お客様を増やすこと自体が目的ではなく、宿の経営を良くすることが目的だからです。

空いている部屋には、それぞれ理由があるかもしれません

平日の客室が空いているとき、広告を増やしたり、OTAのプランを工夫したり、安い宿泊パックを作ったりすることがあります。

どれも集客策として考えられることです。

ただ、その前に、なぜその日の客室が空いているのかを考えてみたいところです。

これは簡単そうで、意外に難しい問題です。

たとえば、週末のお客様と平日のお客様では、宿を利用する理由が違うかもしれません。

小さな子どものいる家族には学校や仕事がありますから、平日に宿泊してもらうのは簡単ではありません。一方、時間に余裕のあるシニア層なら、混雑する週末を避けて平日に旅行したい人もいます。

夫婦旅行、女性同士の旅行、一人旅、企業の小規模な研修など、平日に動きやすいお客様はほかにも考えられます。外国からのお客様であれば、日本の曜日に合わせて旅行しているとは限りません。

週末に売れている商品をそのまま平日に売ろうとしても、相手となるお客様が違えば、思うように売れないことがあります。

もちろん、別の理由も考えられます。

商品にも料金にも大きな問題はない。それでも売れないことがあります。

ホームページに掲載していても魅力が十分に伝わっていない。検索しても表示されず、そもそも見つけてもらえていない。OTAでは、他の宿や数多くのプランに埋もれてしまっている。

せっかく宿を気に入って予約しようとしても、プランが多すぎて違いがよく分からず、選ぶのに手間取っているうちに別の宿を見始めてしまうこともあるでしょう。

一度宿泊して満足してくださったお客様がいるのに、その後は何も連絡していない宿もあります。

このような場合は、商品そのものを作り直すより、伝え方や販売方法を変えた方が効果的かもしれません。

「平日の稼働率が低い」という同じ現象でも、原因が違えば対策も違います。原因を十分に見ないまま対策から始めると、お金と手間をかけた割に成果が出ないことがあります。

「あと5室」のお客様は、どんな方でしょうか

平日の空室が多ければ、誰でもいいから泊まってほしいと思うことがあります。

しかし、実際に集客策を考える段階では、「あと5室にどんなお客様に泊まっていただくか」を少し具体的にした方が、やるべきことが見えやすくなります。

そのとき、まだ来ていないお客様だけを想像する必要はありません。

まず、今の平日に来てくださっている20室のお客様を見てみる方法があります。

どこから来てくださったのか。ご夫婦なのか、一人旅なのか、友人同士なのか。どの年代が多く、どのプランを選び、公式ホームページとOTAのどちらから予約しているのか。初めてのお客様なのか、何度も来てくださっているお客様なのか。

こうしたことを見ていくと、そこに「あと5室」のヒントが隠れているかもしれません。

たとえば、ご夫婦で静かに温泉を楽しむお客様が平日に多いことが分かったとします。

その方々にとっては、人の少ない平日そのものが魅力なのかもしれません。食事をゆっくり楽しめる。大浴場も混雑しない。周辺の観光地も比較的静かです。

そうであれば、単純に「平日限定10%引き」にする以外にも方法がありそうです。

値段は変えずに滞在時間を長くする。料理や地元のお酒を楽しめるプランを作る。連泊したくなる商品を考える。以前、別の季節に泊まってくださったお客様に、今の季節の魅力を知らせる。

周辺の観光施設や飲食店と組み合わせ、その地域ならではの体験を楽しんでいただく方法もあります。

平日に50組を新しく集めるのではありません。

まず5組です。

今来てくださっているお客様を知り、そのうえで、あと5室にはどんなお客様に泊まっていただきたいのかを考える。そのお客様が他の宿ではなく自館を選んでくださる理由が見えてくれば、何を伝え、どこで知っていただけばよいのかも考えやすくなります。

ここまで来ると、漠然としていた「集客を増やしたい」という話が、具体的な行動に変わってきます。

「もう少しお客様が増えれば」を経営改善につなげる

平日の5室を増やす方法が見つかったとします。

月に100室増えれば、大きな成果です。

ただ、本当にお客様が増えると、宿の中にも変化が起きます。

一日5室、2名ずつなら10名のお客様が増えます。チェックインが増え、夕食と朝食も10人分増え、翌日には5室分の客室清掃が必要になります。

それまで20室だったから、今の仕事のやり方で回っていたのかもしれません。25室になれば、フロント、厨房、配膳、清掃など、どこかに無理が出てくることもあります。

ここで「人を増やせばよい」と考える前に、もう一度、仕事のやり方を見る余地があります。

お客様が増えても、今の人数で無理なく対応できるように仕事を変えられないか。予約からチェックイン、食事、清掃までの流れを見直せば、同じ人数でも対応できる余地があるかもしれません。

旅館やホテルの経営では、集客だけ、人手不足だけ、コストだけを切り離して考えることが難しいものです。

お客様を増やせば現場の仕事が変わります。仕事のやり方を変えれば、必要な人数も変わります。宿泊料金や販売方法を変えれば、売上だけでなく利益の残り方も変わります。

一つの課題を改善するときには、その変化が宿全体にどう影響するのかも見ておきたいところです。

「もう少しお客様が増えれば……」。

そう感じたときは、まず「もう少し」を具体的にしてみるとよいかもしれません。

どの日に、あと何室増やしたいのか。今その日に来てくださっているのは、どんなお客様なのか。そのお客様に選んでいただくには何を変えればよいのか。そして、お客様が増えたときにも無理なく対応できるのか。

ここまで見えてくると、「もっと集客しよう」という漠然とした課題が、いくつかの具体的な経営課題に変わってきます。

「もう少し」を具体的にする。

そこから始めてみると、今までとは少し違った宿の姿が見えてくるかもしれません。

次回は人手不足について考えてみます。

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